2022年の1月に、埼玉県ふじみ野市で自ら対応していた在宅患者が亡くなった際に、その息子に散弾銃で殺害されるという悲惨な事件が起きました。
私はこのニュースを見て在宅にかかわる同じスタッフとして実に衝撃を受けました。
このニュースを報じたいくつかのSNSの記事によれば、どうやら犯人は近隣でも噂になるほどの要注意人物であったらしいということですから、近隣住民にしてみれば、このような事件もある意味予想できることだったのかもしれません。
けれども、この事件を犯人の特殊性と片付けてしまえない一面もあるように思います。
近年、終末期医療において、医療に期待されていることは、とにかく「延命」ということではなく、個々の患者さんの意思や尊厳を重視したACP(人生会議)の考え方が少しずつ尊重されるようになってきました。この殺害された医師は、恐らく看取り患者に多く接するに上おいて、ACPに対する理解と信念を持っていたことでしょう。
この事件は在宅で亡くなった92歳の母親のお悔やみに来るよう66歳の息子から医師に要請があり、何人かの在宅スタッフと訪れ、看取りまでの経過を説明した直後にこの事件が起きたそうです。
SNSの記事によれば、どうやらこの息子は、可能な限りの延命処置をして欲しいという認識を持っていたようです。
先日令和5年7月に近隣病院の患者サポートセンターが中心となって、住民向けにACP(人生会議)について行ったアンケート調査によれば、35名中5名、実に8割以上の方がACPという名前も知らなかった、という結果が出ました。この調査結果からわかるように、一般の人はACPの発想は理解できていないのが現状ですから、その息子さんにすれば、延命処置に積極的ではない医師というのは、全く理解できなかったのかもしれません。
今後、同様のトラブルが発生しないためにも、我々地域医療に携わるスタッフは、ACPの意味を啓蒙すると同時に、実際にそのような話し合いの場を普段から提供することも必要ではないかと思います。