もう20年も前の、私が学生の頃から薬学部6年制が論じられていました。そんな中で2つの派が6年制への移行に真っ向から反対していました。その1つは女子大のグループ。理由は結婚に伴って退職することが大勢であった当時の社会情勢を反映するもので、もともと短い女性の社会進出が2年も遅れてしまうことに対する現実的な反対派。もう1つの反対派は、全くそれとは根拠が異なるものですが、東大を筆頭とするエリートグループで、創薬研究者の道を目指すものが、学部4年卒業後に2年間の大学院での研究者教育が暗黙のうちにレールの中に組み込まれていたものを、わざわざ2年間も役に立ちそうもない薬剤師教育にはぎとられる煩わしさに対する反対派です。
いずれもの切実な心境は察しられたものの、本来「薬剤師」という同じ土台の上に立っているはずの両者が、いずれもエゴイスティックな思惑のみから論議されている事に加えて同職種とは思えない方向性のギャップに、まだ学生の分際でありながら、将来の自らの職能に対して強い不安感と不快感を感じたことを覚えています。
しかし紆余曲折はあったものの、6年制教育が開始されて10年近くが経ち、「医薬分業」の急速な進展、それに伴う大学教育自体が臨床重視に移行しつつある中で、構造的にはこの両者は1つの同じ方向性を向いているものであると信じていました。・・・ところがどっこい、社会はそんなすんなりとはよくなっていくものではないというのは世の常です。今の5年生の実習はどのようなカリキュラムで行われているか、というと次のような形です。学生は5年生になるとそれぞれ自らの得意な分野の教室への配属がなされます。そしてそれは例えば合成系の教室であれば個々にその教室のテーマが与えられ、テーマに沿った研究に取り組みはじめます。しかしその一方で5年生の1年間をⅢ期に分け、そのうちのⅡ期計22週間を実務実習に駆り出されます。従って教室の研究はその間ストップになります。せっかく少しづつ研究の内容を覚えてきたところで、ドカッと穴が開いてしまうことになるのです。教室の先生にしてみれば、こんな迷惑なことはないでしょう。それはたとえ臨床系の教室であっても同じように思っていると思います。先日私の大学院の母校の冊子が送られてきて4年制の学生の進路を見るとほぼ100%が「進学」となっていました。要するに、かつて「薬剤師」には興味がなく、創薬の分野を目指した人種はそのまま4年制教育に引き継がれている事が伺えました。そして純粋に「薬剤師」を目指した人種はこれまでどおり中途半端な「研究者教育」と「薬剤師教育」が受け継がれていく事になった、ということでしょうか?・・・要するに6年制教育の根幹の1つと考えられた、「薬学部2面生の解消」ということは、完全に失敗に終わっている!と判断せざるを得ないのではないでしょうか?